働き方が多様化してきたと言われる現在ですが、多くの人は、「会社勤め」として定年退職を迎えるのではないでしょうか。
長年のお勤めから解放されて新しい第二の人生が始まるこの日を楽しみにしている人も多いかと思われますが、同時に、この日は「さまざまな環境が変わる日」でもあります。
自分のライフスタイルだけではなく、さまざまな「保険」との関わり方も大きく変わるため、ここではそれに注目してお話し、特に「健康保険」をとりあげます。なお、ここでは「60歳が定年の人で」「今までは社会保険に入っていた人」を想定しています。
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定年前に健康保険について行うこと
老後のことは定年後に考えればよい、というものではありません。健康保険においても例外ではなく、定年が間近に迫ったら次のことを準備しておきましょう。
定年後の保険をどうするべきかを考える
社会保険というかたちで健康保険に入っていた人(以下はこれを単純に「健康保険」とします。国民健康保険の場合は別途「国民健康保険」と記載します)は、定年前に、「定年後の保険をどうするべきか」ということについて考えなければなりません。
日本では国民全員が保険に加入している状態をつくっていますし、また有事の際にはこの「保険」が非常に役に立ちます。
定年後の保険をどうするかと考えた場合、そこには4つの選択肢があります。
- 国民健康保険に加入する場合
- 家族で健康保険に入っている人の扶養に入る場合
- 任意で健康保険を継続する場合
- 特例退職被保険者制度を利用する場合 ※1
それぞれの状況に応じてどのような形で保険に入るかを考えておきましょう。
※1 特例退職被保険者制度とは
定年後の保険の選択肢として4つめに挙がってくるのは、「特例退職被保険者制度を利用する」というものです。後期高齢者医療制度に入る前の期間、これを利用することができるのです。これには複雑な条件があります。
- 老齢厚生年金の受給資格を持っている人
- かつ、原則として健康保険組合に20年以上加入していた人
- 一部の会社に所属していた人
さまざまなサービスを受けることができる、非常にメリットの多い制度です。ただ、「一部の会社に」というところから分かるように、すべての人が対象とされるわけではありません。日本でも有数の大手の会社(パナソニックや日立、ホンダなど)のみがこの制度を制定しているにすぎません。
人間ドックを受けておく
さて、定年が間近に迫ったのならば、ぜひ「人間ドック」を受けるようにしましょう。健康保険に加入している場合、人間ドックを受ける際には補助金が出されます。これが意外と大きく、家計を助けてくれます。
また、健康保険に加入していたときに治療を受け始めた場合、この日が「初診日」とされます。
健康保険に加入していた期間に「初診日」がある場合、定年退職後に治療を受ける場合よりも障害厚生年金の判断基準が緩くなるという特徴があります。
健康保険証のコピーをとっておく
定年前に健康保険証のコピーをとっておくのもよいでしょう。これは健康保険に限った話ではありませんが、環境が変わるときには「前の書類のコピー」「整理番号」などが必要になることが多いもの。複数枚とっておくと、後々に面倒がありません。
定年の年・退職日に健康保険について行うこと
ここからは、定年の年・退職日に行うことについて見ていきましょう。
健康保険証の返却
基本的には、最後となる出社の日に返却します。返却対象先は「会社」です。ただ、「退職はするが、有給休暇が残っている」などの場合は、健康保険証をコピーしておくことが求められることもあります。このあたりは会社に確認した方がよいでしょう。
健康(社会)保険資格喪失証明書の発行
国民健康保険などに切り替える場合、保険に二重加入している状態になってはさまざまな不都合があります。このため、健康(社会)保険資格喪失証明書を受けなければなりません。これは基本的に、失効日を「退職日の翌日」とされていることが多いものであり、非常に重要です。また、これがなければ、国民健康保険に入れません。
国民健康保険に加入するための手続きは退職後14日以内とされていますが、健康(社会)保険資格喪失証明書を受け取ることができるのは退職以降です。また、通常は5日以内に手続きが開始されます。退職後は速やかに手続きをするようにしましょう。
会社側が発行してくれることもありますが、自分で手続きをする場合には、資格喪失証明書などの必要書類を揃える必要があります。
退職直後に健康保険について行うこと
上では、定年後の健康保険を考えたとき以下のような選択肢があるとしました。
- 国民健康保険に加入する場合
- 家族の扶養に入る場合
- 任意で保険を継続する場合
それぞれ加入するためにはどのような条件があるのか、いつまでに手続きをする必要があるのか、詳しく見ていきましょう。なお、特例退職被保険者制度については前述の通り、一部の会社に所属している人のみが対象となるため、ここでは除外しております。
国民健康保険に加入する場合
前年の所得に応じて保険料が決められますが、自治体でそれぞれで計算式が変わるため、その保険料は一定ではありません。身分証明書や印鑑、資格喪失証明書などが必要で、退職後14日以内に手続きを行うことが求められます。
家族の扶養に入る場合
家族の扶養に入る事ができる場合、保険料は0になります。このため、これを利用することができれば、保険料に悩まされることはありません。しかしながら、これをクリアするには以下のようにさまざまな条件があります。
- 原則として年収が130万円未満(障がい者もしくは対象者が60歳以上の場合は180万円未満)
- 健康保険の保険者であった期間が2か月以上ある
- 被保険者の年収の50パーセント未満の年収であること
- 退職してから20日以内に、申請に関わる手続きを行っていること
この4条件を満たさなければ、被扶養者とはなれません。また、これもほんの一例であり、実際にはもっと違った運用形態・条件をつけているところもあります。このため、家族の被保険者となりたいのであれば、事前の確認が必須です。
任意で保険を継続する場合
これは、ある程度の条件をクリアすることができれば入ることのできるものです。健康保険に加入していたときとほとんど同じ恩恵を受けることができるもので、任意継続です。利用価値は比較的高いと言えるでしょう。条件は以下の通りです。
- 被保険者としての期間が、2か月以上ある
- 退職した翌日から起算して20日以内に、申請するための手続きを行うこと
ただこの制度は、健康保険に入っていたときとは異なり、「会社側からの保険費用の払い込みはない(自己負担100パーセントで保険料を納めていく必要がある)」、「最長でも、その期間は2年までである」という特徴を有しています。ちなみに、保険料はだいたい3万円~3万5,000円程度です。
また、この手続きをした場合でも、2年後には、当然「家族の扶養に入るか、国民健康保険に入るか」の選択が求められます。暫定的にこの方法を選んだ場合でも、将来のことを見据えて算段をしておくとよいでしょう。
まとめ
会社を定年退職した場合、「今まで入っていた保険をどうするか」の選択が求められます。これは大きく分けて4つに分類されます。
- 国民健康保険に加入する
- 家族の健康保険の扶養となる
- 任意継続被保険者となる
- 特例退職被保険者制度を利用する
それぞれで条件が変わってくるので、しっかりチェックをしておきたいものです。
健康保険に入っている時期は、人間ドッグなどの件でかなりの優遇措置が受けられます。定年退職前には一度人間ドックを受けて、健康状態をチェックするようにしてください。また、健康保険証のコピーをとっておくと、手続きの面などで非常にスムーズに事を進められやすくなります。複数枚とって、手元に保管しておくとよいでしょう。